
AIで一人ひとりは速くなった。それでも、チームの仕事が終わらないのはなぜか?
生成AIによって、資料作成や情報検索、文章作成など、一人ひとりの作業は確かに速くなっています。
しかし、AIが作ったものを誰が確認するのか。どの工程までAIに任せるのか。例外が起きたときは誰が判断するのか。
そこが曖昧なままでは、一つの作業が速くなっても、仕事全体が速くなるとは限りません。
前回の記事では、社員にAI活用を求めるなら、仕事を「変えられる条件」を組織側も整える必要があると述べました。
では、その条件が整ったあと、実際に仕事の進め方を変えるのは誰でしょうか。
その中心を担う存在の一つが、現場の業務を最もよく知る管理職です。
管理職の役割は、「人を管理する」から「仕事を設計する」へ広がる
マイクロソフトが2026年に公表したWork Trend Indexでは、AI活用が進んでいる組織ほど、管理職が仕事の進め方に深く関わっている傾向が示されています。
たとえば、管理職がAIを使う際の品質基準を示している割合は、AI活用が進んでいる組織で83%、それ以外では57%でした。さらに、AIを前提とした仕事の再設計を促している割合も、87%に対して61%でした。
因果関係を直接示すものではありませんが、AIを現場の成果につなげるうえで、管理職の関わり方が重要であることはうかがえます。
AI時代の管理職に加わるのは、単に「AIを使ってください」と伝える仕事ではありません。
業務を分解し、どこをAIに任せるのか。どこで人が判断するのか。どう受け渡し、誰が品質を確認するのか。
管理する対象そのものが、「人の作業」から「人とAIを含む仕事全体」へ広がっていくのです。
AIが担う作業が増えるほど、人に残る仕事の重心は『実行』から『判断・監督・例外対応』へ移っていく
この変化は、すでに世界の働き方にも現れ始めています。
企業向けソフトウェア大手のSAPが2026年、世界の社員・管理職4,016人を対象に行った調査では、この1年間で「人をリード・管理・監督する仕事が増えた」と答えた人が46%、「問題解決が増えた」と答えた人が45%でした。
AIが情報整理や文章作成などを担うほど、人には、何を任せるかを決め、出力を確認し、例外に対応する仕事が残ります。
つまり、AI時代の管理職に求められるのは、AIより速く作業することではありません。
AIを含めて、仕事全体がうまく流れる状態をつくることです。
そのためには、「この業務でAIを使う」という発想から一歩進み、一連の仕事を工程ごとに捉え直す必要があります。
AWSは、「AIを使わせる」から「開発の流れを変える」へ進んだ
その変化が分かりやすいのが、Amazonのクラウド事業を担うAWS(Amazon Web Services)です。
ソフトウェア開発では、生成AIによるコード作成が急速に広がっています。しかしAWSが着目したのは、単にエンジニアがコードを速く書けるかどうかではありませんでした。
BCGが2026年に紹介した同社の取り組みでは、成果を「AIツールを何人が使ったか」ではなく、実際にどれだけ新しい機能を顧客へ届けられたかで捉えています。
また、AI活用をコード作成だけに限定せず、その前の設計、その後のテスト、保守・運用まで含めた開発プロセス全体へ広げています。AI活用に詳しいエンジニアを各チームに入り込ませ、実際の仕事の中で新しい進め方を定着させた結果、BCGによれば、顧客へ提供した新機能は27%増加しました。
ポイントは、AIツールそのものではありません。
「コードを書く」という一つの作業だけを速くするのではなく、その前後を含めた仕事全体を見直したことです。
これはIT企業だけの話ではありません。
一つの工程がAIで高速化したとき、その前後の仕事は誰が担うのか。確認工程はどうするのか。人はどこで判断するのか。
そこまで設計して初めて、個人の効率化がチーム全体の成果につながります。
東京ガスは、AIを入れる前に「業務全体」を整理した
日本でも、同じ考え方でAI活用を進める企業があります。
東京ガスでは、顧客ごとに適したマーケティング施策を考える業務が複雑化し、担当者の業務量が増えていました。
そこでNTTデータと共同で行ったのが、いきなり特定の作業へAIを導入することではなく、まずマーケティング業務全体を整理することでした。
生成AIを使う対象を最初から限定せず、既存業務全体を整理したうえで、AIの効果が見込める部分を特定。顧客層の設定から施策案の作成までを支援する仕組みを開発し、2024年10月から実際の業務で利用しています。
AWSと東京ガスでは、業種も取り組みの規模も異なります。
それでも共通しているのは、
「どのAIを使うか」より前に、「仕事をどう進めるべきか」を考えていることです。
AI時代の管理職に求められるのも、この視点ではないでしょうか。
今ある業務をそのままAIで高速化するのではなく、仕事を分解し、AIに任せる工程、人が判断する工程、両者の受け渡しを組み直す。
それが、「仕事を設計する」という役割です。
管理職に必要なのは、「AIの専門家になること」ではない
AI時代の管理職が、AIモデルの仕組みをすべて理解する必要はありません。
むしろ重要なのは、自部門の仕事を理解し、成果までの流れを分解し、AIと人をどう組み合わせれば仕事全体が良くなるのかを考えられることです。
まず一つの業務について、AIに任せる工程、人が判断する工程、品質を確認する人、例外時の戻し先まで整理してみる。
そして、作業時間だけでなく、確認待ちや手戻りまで含めて、本当に仕事全体が良くなったかを見る。
AIによる「個人の時短」を、「チームの成果」に変える。
その橋渡しを担うことが、これからの管理職に加わる重要な役割です。
ただし、仕事を設計するためには、もう一つ前提があります。
「そもそも、何を目指してこの仕事を変えるのか。」
正解が次々と変わるAI時代に、組織が進む方向と判断軸をどう示すのか。
次回は、そこからリーダーに求められる力を考えます。
AIxができること
AIxは、AIを前提に企業の仕事・人材・組織のあり方を再設計し、実行まで支援する会社です。
独自のREWIREフレームワークを用いて、AI導入を単なるツール導入で終わらせず、業務プロセスや組織、人材まで含めて「AI時代にどう変えるべきか」を整理します。
人材領域では、企業やプロジェクトに必要なAI人材を定義し、適切な人材のマッチングやチーム組成まで支援しています。
人とAIの役割分担や業務フローを整理し、それを設計・運用できる人材の育成、採用、外部活用まで見直したい方は、ぜひAIxへご相談ください。
参考情報
Microsoft「2026 Work Trend Index Annual Report」
https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/agents-human-agency-and-the-opportunity-for-every-organizationSAP「Six Dimensions for Smarter Work Redesign in the Age of AI」
https://www.sap.com/blogs/six-dimensions-for-smarter-work-redesign-in-the-age-of-aiBCG「Agentic AI Turns Every Team into Its Own Transformation Engine」
https://www.bcg.com/publications/2026/agentic-ai-turns-every-team-into-its-own-transformation-engineNTTデータ「生成AI活用により東京ガスのマーケティング領域のDXを推進」
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/101001/
