
「変えてほしい」と「今までどおり」の板挟み
「AIで仕事を変えろ」。でも、評価されるのは今までどおりの仕事では?
生成AIの利用環境を整え、研修も実施した。それでも、会議に上がるのは一部の社員の活用例ばかり。部門全体の仕事は、あまり変わっていない。そんな状況に心当たりはないでしょうか。
現場に目を向けると、今月の売上目標も、納期も、担当業務も従来のままです。AIで仕事を見直す時間は、自分で捻出しなければなりません。試して成果が出なければ、目の前の仕事が遅れたことを問われます。
この条件では、慣れた方法を選ぶことにも合理性があります。
「現場に当事者意識が足りない」と考える前に、確認したいことがあります。自社は、社員が仕事を変えようとしたときに、それを支えられる組織になっているでしょうか。
AI活用を促すなら、動ける条件も整える
マイクロソフトが2026年に公表した働き方調査では、業務でAIを使う10か国の知識労働者2万人のうち、45%が「AIで仕事を再設計するより、現在の目標に集中する方が安全」と回答しています。一方、成果が出なくてもAIによる仕事の再設計が評価されると答えた人は13%でした。
この調査だけで、個々の企業の停滞原因は断定できません。
ただ、変革を求める経営方針と、日々の評価や優先順位が食い違う可能性は、自社でも点検する価値があります。
もちろん、AIの精度やデータ整備、スキルの不足が課題になる場合もあります。しかし、技術的に実現できても、誰が変更を決めるのか、試行に使う時間をどう確保するのか、何を評価するのか、成果に誰が責任を持つのかが曖昧なら、取り組みは進みにくくなります。
AI活用を広げるには、社員の意欲だけでなく、変更を決める権限、試す時間、評価の仕組み、成果への責任まで含めて、仕事を変えられる条件を整える必要があります。
パナソニック コネクトに見る、活用を支える仕組み
参考になるのが、パナソニックグループで企業向けの製品・サービスを担うパナソニック コネクトです。同社は2026年7月、2025年度のAI活用による業務時間の削減効果を78.8万時間、年間総労働時間の3.4%相当と公表しました。
注目したいのは、数字だけではありません。
同社が2025年に公開したインタビューでは、社員にAI利用を一律に強制せず、自分の仕事にどう生かすかを考えてもらう方針が説明されています。同時に、法務・知財・情報セキュリティが連携する「データ利活用支援チーム」を設け、利用の考え方やルールを示していました。
時間削減は同社の公表値であり、この体制だけの効果を示すものではありません。それでも、現場の自発性を尊重しながら、個人では解決しにくい判断を組織が支える姿勢は参考になります。
「自由に使ってください」と任せることと、「安心して試せる条件」を用意することは、セットで考えたいところです。
実際の現場なら、どこで止まるか
たとえば製造業で、AIを使って品質報告書の下書きを短時間で作れるようになったとします。
しかし、品質保証部門と製造部門の間では、従来の確認手順が残ったまま。AIで作った報告書を誰が確認し、どの条件なら従来工程を省略できるのかも決まっていません。
すると担当者は、AIの出力を確認したうえで、従来の書類も作ることになります。作成そのものは速くなっても、仕事全体では二重作業が残ります。
ここで必要なのは、さらにAI利用を促すことではありません。
どの工程を変えるのか。何を残すのか。誰が変更を決めるのか。そして、変更後の成果に誰が責任を持つのか。
こうした条件を、組織として決めることです。
同じ構造は、ほかの業務にもあります。広告・マーケティングでAIによる企画作成が速くなっても、承認工程が従来のままなら顧客への提案は早まりません。AI人材を採用しても、どこまで仕事を変えてよいのかが曖昧なら、その専門性を十分に生かせない可能性があります。
個人の工夫だけでは変えられない部分に、管理職や経営がどう関与するかが問われます。
最初に見直すのは、一つの業務の「進め方」
全社の制度を、一度に変える必要はありません。
まずは停滞している業務を一つ選び、次の点を確認してみてください。
誰が変更を決めるのか。
試す時間をどう確保し、そのために何を減らすのか。
何を成果として評価するのか。
試した結果に、誰が責任を持つのか。
利用回数だけでなく、確認待ちや手戻りまで含めて仕事全体が改善したかを見ることも大切です。
成果が出なかった場合も、単に「失敗」とするのではなく、何が分かり、次に何を変えるのかまで振り返れる状態をつくる。そうすることで、現場は新しい方法を試しやすくなります。
AI導入が進まないとき、次のツールや追加研修を検討する前に、組織の側を見直してみる。
社員に「変わってほしい」と伝える一方で、会社は「変えられる条件」を渡せているでしょうか。
そして、条件を整えた先では、次の問いが生まれます。
人とAIの役割を分け、仕事そのものをどう組み直すのか。その設計を誰が担うのでしょうか。
次回は、AI時代に管理職へ求められる役割を、「管理する人」から「仕事を設計する人」への変化という視点から考えます。
AIxができること
AIxは、AIを前提に企業の仕事・人材・組織のあり方を再設計し、実行まで支援する会社です。
独自のREWIREフレームワークを用いて、AI導入を単なるツール導入で終わらせず、業務プロセスや組織、人材まで含めて「AI時代にどう変えるべきか」を整理します。
人材領域では、企業やプロジェクトに必要なAI人材を定義し、適切な人材のマッチングやチーム組成まで支援しています。
AI活用が停滞している業務を起点に、変更を決める権限や評価、責任分担、必要な人材まで含めて推進体制を整理したい方は、ぜひAIxへご相談ください。
参考情報
Microsoft「2026 Work Trend Index」
https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/agents-human-agency-and-the-opportunity-for-every-organizationMicrosoft「How Frontier Firms are rebuilding the operating model for the age of AI」
https://blogs.microsoft.com/blog/2026/05/05/how-frontier-firms-are-rebuilding-the-operating-model-for-the-age-of-ai/パナソニック コネクト「AI活用で総労働時間の3.4%削減」
https://news.panasonic.com/jp/press/jn260729-1パナソニック コネクト「『ConnectAI』が変える働き方。AIと共創する未来」
https://connect.panasonic.com/jp-ja/gemba/article/connect-ai-kawano-mukaino
