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取引コストが大きく下がったとき、会社に残る仕事は何か

取引コストが大きく下がったとき、会社に残る仕事は何か

取引コストが大きく下がったとき、会社に残る仕事は何か

山本 桜子

AI Research Strategist

When transaction costs collapse, what work stays inside the company?

When transaction costs collapse, what work stays inside the company?

When transaction costs collapse, what work stays inside the company?

業務の一部をAIエージェントが担う時代

探索や情報交換、進捗確認の一部をエージェントが担うようになれば、取引にかかるコストは確実に下がります。そのとき、会社の中に残しておくべき仕事とは何でしょうか。

1937年、経済学者ロナルド・コースは「なぜ企業という組織が存在するのか」を説明しました。
市場で取引相手を探し、情報を集め、条件を交渉し、契約を履行させるにはコストがかかります。
市場での取引コストが、社内で指示・調整するコストを上回る場合、企業は取引を内部化するインセンティブを持ちます。

だから企業という境界線が生まれた、という説明です。

逆に言えば、取引コストが大きく下がれば、企業がすべてを自前で抱える理由も薄れていきます。いま、その前提条件を変えうる技術が登場し始めています。

AIエージェント同士が互いの機能を発見し、安全に情報を交換して複雑なタスクを調整するための共通言語として、Googleが2025年4月に立ち上げたA2A(Agent2Agent)は、同年6月に中立的な運営団体であるLinux Foundation(オープンソース技術の標準化を担う国際的な非営利団体)のプロジェクトとなりました。

2026年4月時点では150を超える組織が支持し、主要クラウドへの統合や複数業界での本番利用も始まっています。

AIエージェント同士を接続する技術的な基盤が、企業や業界をまたいで整いつつあるということです。



問われるのは「人に何を残すか」だけではない

ここで重要なのは、取引コストが一律に消えるわけではない、という点です。

下がるのは「取引を成立させるコスト」です。候補を探す、条件を突き合わせる、進捗や履行状況を確認する。
構造化しやすく、ルール化できる部分ほど、エージェントに委ねられていきます。

一方で、技術的な認証や情報交換のコストは下がり得ても、相手の能力・意図・責任分担を信頼できる状態にするコストや、要件の背景を共有するコストまで自動的に消えるわけではありません。

なぜこの要件なのか、どこまでなら譲れるのか、失敗したとき誰がどう責任を負うのか。こうした暗黙の文脈は、機械可読な形に落としにくく、短期間では積み上がりません。

つまり、AIによって取引コストが下がると、問われるのは「人に何を残すか」だけではなく、「企業の内側に何を残すか」になります。外部に委ねられる機能が増えるほど、自社に抱える意味のある能力は何かという問いが前に出てきます。

その候補になるのが、いま挙げた信頼と文脈を扱う能力です。

日本企業では、取引先との信頼構築や調整が担当者個人の経験や人脈に依存しているケースもあります。
こうした仕事が役割や評価指標として明文化されていない場合、実務の自動化に伴って見えにくくなり、「非効率」として削られかねません。

内製すべき能力が、定義されていないがゆえに外に流れ出る。ここに構造的なリスクがあります。



IT・ソフトウェアと広告・マーケティングで、先に境界が動く

影響が早く表れるのは、取引が共創型である業種です。

IT・ソフトウェア領域では、Salesforce、SAP、ServiceNowなどもA2Aを支持し、エージェント間相互運用の共通仕様づくりに関わっています。

システム連携の相互運用性が高まれば、ベンダー選定の論点は「つながるかどうか」から別の軸へ移ります。
接続そのものは外部化できる機能になり、代わりに内製すべきは、顧客の業務背景を理解し、要件として言語化する力でしょう。
受託開発やSIでは、仕様が固まる前の対話の質が成果物の質を左右します。
この部分は自動化や外注の対象というより、自社の職能として育てる対象です。

広告・マーケティングでは、メディア配信や入札最適化の自動化が進む一方、事業課題の定義、ブランドの表現方針、法令・ブランドセーフティ上の判断など、社内に置いておきたい領域も残ります。
運用の効率は外部の仕組みに委ねられても、ブランドの一貫性と説明責任まで外には出しにくい。

むしろ、前提を共有できている相手かどうかが、取引継続の条件になっていきます。

いずれの業種でも、パートナー選定の基準は「安く早く調達できるか」から、「文脈を共有しやすく、問題が起きたときの説明責任が明確か」へと重心が移っていくと考えられます。



仕分けから始める、3つの実務

では、何から着手すべきか。大がかりな構想から入る必要はありません。

第一に、主要な取引プロセスを二つに仕分けてみること。探索・交渉・監視のように外部やエージェントに委譲しやすい領域と、信頼・文脈のように自社に残したほうがよい領域を、紙の上で分けてみる。この作業自体が、自社の取引構造を見えやすくしてくれるはずです。

第二に、自社に残す領域を役割と評価指標として明文化すること。「関係構築が上手い人」を属人的に褒めるだけで終わらせず、職能として定義し、育成と評価の対象に置いていきます。

第三に、エージェント連携を本格的に進める前に、説明責任の所在とエスカレーション基準を話し合っておくこと。自動で進んだ取引の責任を誰が負うのかは、後から決めるには重い論点になりがちです。

企業に残るのは、単に自動化できない仕事ではありません。外部との取引に委ねるより、自社の中に持つ方が競争力や信頼につながる仕事です。



AIxができること

AIxは、AIを前提に企業の仕事・人材・組織のあり方を再設計し、実行まで支援する会社です。独自のREWIREフレームワークを用いて、AI導入を単なるツール導入で終わらせず、業務プロセスや組織、人材まで含めて「AI時代にどう変えるべきか」を整理します。人材領域では、企業やプロジェクトに必要なAI人材を定義し、適切な人材のマッチングやチーム組成まで支援しています。

取引プロセスを「外部化できる機能」と「自社に残すべき信頼・文脈の能力」に仕分け、役割と責任を再設計したい。あるいは、その設計を担えるAI人材を確保したい。そうお考えの方は、ぜひAIxへご相談ください。



参考情報

The Linux Foundation「A2A Protocol Surpasses 150 Organizations, Lands in Major Cloud Platforms, and Sees Enterprise Production Use in First Year」

https://www.linuxfoundation.org/press/a2a-protocol-surpasses-150-organizations-lands-in-major-cloud-platforms-and-sees-enterprise-production-use-in-first-year?hs_amp=true

The Linux Foundation「Linux Foundation Launches the Agent2Agent Protocol Project to Enable Secure, Intelligent Communication Between AI Agents」

https://www.linuxfoundation.org/press/linux-foundation-launches-the-agent2agent-protocol-project-to-enable-secure-intelligent-communication-between-ai-agents?hs_amp=true

Google Developers Blog「Google Cloud が A2A を Linux Foundation に寄贈」

https://developers.googleblog.com/ja/google-cloud-donates-a2a-to-linux-foundation

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