
画面と画面の間に、まだ人が座っている
全社員に生成AIを配った。研修も済ませた。それでも、仕事の流れはあまり変わっていない。
その「コピペ」をしているのは、まだ人間ではありませんか。
取引先のメールから注文内容を読み取り、在庫システムで確認し、受注画面に入力して、納期を返信する。古い基幹システム、部門ごとに増えたSaaS、担当者のPCにある表計算ファイル。その間を、社員が目視と手作業でつないでいる企業は少なくありません。
生成AIによって、文章の要約や下書きは速くなりました。一方で、システム間の転記や確認といった「継ぎ目」の仕事は、そのまま人に残っている。
AIを入れても仕事の流れが変わらない理由の一つは、ここにあります。
AIは「新しい基盤」ではなく「継ぎ目」から入る
企業のDXを難しくしてきた背景には、古い基幹システムや、部門ごとに増えたシステム同士を簡単にはつなげられないという問題があります。
APIで接続できれば理想的ですが、古いシステムには十分な接続口がなかったり、個別開発に費用や時間がかかったりします。
その隙間を埋めてきたのが、人です。
ある画面を見て、別の画面へ入力する。Excelに落とし、加工し、別のシステムへ登録する。社員が「人間ミドルウェア」としてシステム同士をつないできました。
近年のAIエージェントは、画面を認識し、ブラウザなどを操作しながら既存システムを扱えるようになりつつあります。
つまりAIの価値は、既存システムを置き換えることだけではありません。既存ITを残したまま、その間の「継ぎ目」をつなぐ層として使うことにもあります。
企業AIの現実的な姿は、既存ITを置き換えるのではなく、その上にAIレイヤーを重ね、必要な部分から業務をつなぎ直していく形ではないでしょうか。
問うべきは「AIを導入したか」ではなく、「AIと既存システムの継ぎ目を、誰がどう設計したか」です。
先行企業は、既存ITの上にAIを重ねている
JPMorgan Chaseは、約20万人が利用する社内生成AI基盤「LLM Suite」を展開しています。
特徴は、特定のAIモデルに固定せず、用途に応じてモデルを使い分けられる「抽象化レイヤー」として設計されていることです。ニュースや決算説明会の議事録など、社内データへの接続も段階的に進めています。
既存のデータやシステムを捨てるのではなく、その上にAIを重ねる発想です。
SAPも、既存のSAP環境の上でAIエージェントを開発・連携できる「Joule Studio」を発表しました。 SAPによると、ソニーでは従来3〜4日かかっていた手作業による開発と調整が、10〜15分で生成されるソリューションに置き換わったとされています。
国内では日立製作所が、要件定義から運用までのシステム開発工程にAIエージェントを適用する「Agentic AI Integration Platform」を発表しています。 社内試行では、設計からテストまでの工程で13人月かかっていた作業を10.5時間に短縮したと報じられています。
共通するのは、既存システムを一掃してからAIを入れているわけではないことです。
既存ITを生かしたまま、その上にAIを重ねている。
先行企業の取り組みは、まさにこの形を示しているのではないでしょうか。
「考えるAI」と「動くAI」の間を設計する
継ぎ目をつなぐうえで重要になるのが、「考えるAI」と「動くAI」の連携です。
社内データを読み、提案内容や価格条件を考えるのが「考えるAI」。その結果を受け取り、CRM更新や請求書発行を行うのが「動くAI」です。
これまで人が担ってきたのは、この間でした。
AIが出した内容を確認し、別のシステムに入力する。システムから取得した数字をコピーし、別の画面へ転記する。
この受け渡しまで設計できれば、人が担ってきた手作業の継ぎ目を減らせます。
ただし、必要なのはシステム連携だけではありません。どこまでAIに任せるのか。どこで人が確認するのか。誤った処理が起きたとき、誰が責任を持つのか。
AIを業務フローに組み込むとは、こうした役割まで設計することです。
継ぎ目には「本当の業務フロー」が表れる
経済産業省が「2025年の崖」で指摘したように、複雑化した基幹システムの刷新には長い時間と大きな投資が必要です。
だからこそ、基幹システムをすべて刷新してからAIを使うのではなく、刷新とAI活用を並走させる必要があります。
その過程で重要になるのは、業務とシステムの両方を理解し、「どこをAIにつながせるか」を設計できる人です。
そして、その出発点はAIツールの選定ではありません。
誰が、どの画面からどの画面へ数字を運んでいるのか。その人が異動したら、どの業務が止まるのか。情報システム部門と事業部門のどちらが、その継ぎ目に責任を持っているのか。
継ぎ目を見ると、組織図や業務マニュアルには表れない「本当の業務フロー」が見えてきます。
AIを入れたかどうかでは、もう差はつきにくくなっています。
これから差になるのは、自社のどこに継ぎ目があり、誰がそこを設計するのか。
自社の場合、この問いにすぐ答えられるでしょうか。
AIxができること
AIxは、AIを前提に企業の仕事・人材・組織のあり方を再設計し、実行まで支援する会社です。
独自のREWIREフレームワークを用いて、AI導入を単なるツール導入で終わらせず、業務プロセス、組織、人材まで含めて「AI時代にどう変えるべきか」を整理します。
既存システムと業務の間にある「継ぎ目」を可視化し、どこをAIでつなぎ、どこに人の判断を残すのかを設計する。あわせて、その実行に必要な人材の定義やチーム組成まで支援します。
AIを入れたのに、仕事の流れが変わらない。
そう感じ、「AIそのもの」ではなくその間にある継ぎ目から見直したいとお考えの方は、ぜひAIxへご相談ください。
参考情報
American Banker「How JPMorganChase democratized employee access to gen AI」
https://www.americanbanker.com/news/how-jpmorganchase-democratized-employee-access-to-gen-ai
SAP News Center「Announcing New Joule Studio」
https://news.sap.com/2026/05/new-joule-studio-enterprise-scale-agentic-development/
ZDNET Japan「日立、SI全工程をAIエージェントが担う「Agentic AI Integration Platform」を発表」
