GOVERNANCE

「使っていいAI」から「動いていいAI」へ

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山本 桜子

AI Research Strategist

From "AI you may use" to "AI that may act"

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AIエージェントは「誰の代理」として動いているのか

AIエージェントが人間に代わって仕事を進める時代に、企業が考えるべき問いがあります。

そのAIエージェントは、誰の代理として、どの権限を使って動いているのでしょうか。

2026年8月、初代デジタル大臣の平井卓也氏は、「野良AIに首輪をつけられるか」という表現で、AIエージェントの管理について問題提起しました。

AIエージェントについて、誰が所有し、誰の代理として、どの権限で行動しているのかを確認できる仕組みが必要ではないか、という考え方です。

これは、企業におけるAI活用でも重要な論点です。

AIエージェントがメールを送り、ファイルを書き換え、顧客データへアクセスし、社内システムを操作するようになれば、「AIを使ってよいか」という従来の利用ルールだけでは不十分になります。

例えば金融機関で、AIエージェントが顧客情報を扱っているとします。

誰の依頼で動いているのか。
閲覧だけなのか、更新までできるのか。
その権限はいつまで有効なのか。
問題が起きた場合、誰が確認・判断するのか。

AIエージェントを業務に組み込むのであれば、利用可否だけでなく、「代理関係」と「権限」を設計する必要があります。



AIエージェントにもIdentityとAuthorizationが必要になる

この考え方は、すでに国際的な議論にも表れています。

2026年2月、米国NISTはAIエージェントのIdentityとAuthorizationに関するコンセプトペーパーを公表しました。

そこで論点となっているのは、AIエージェントの識別、認可、監査、否認防止です。

つまり重要なのは、

「このAIを使ってよいか」ではなく、
「このAIは誰で、誰の権限を使い、何を実行しているのか」

を確認できることです。

これまでのソフトウェアでは、人間のユーザーアカウントに紐づいた権限で処理することも一般的でした。

しかし、AIエージェントが自律的に業務を進めたり、複数のエージェントが役割を分担したりするようになれば、誰がどの処理を行ったのかを区別する必要があります。

そのため、AIエージェント自身にIdentityを持たせ、所有者や利用可能なリソース、ツール、権限などを管理する考え方が重要になります。

Microsoftも、AIエージェントに専用のIdentityを持たせ、アクセス権限や利用可能なツールを管理する方向を示しています。

企業で働く人に社員アカウントがあり、それぞれ利用できるシステムや権限が異なるように、AIエージェントにも「誰なのか」と「何をしてよいのか」を明確にする必要があるということです。



権限は、定義するだけでは足りない

AIエージェントにIdentityを与え、「誰の代理か」「何をしてよいか」を定義しても、それだけでは十分ではありません。

重要なのは、そのルールが実際にエージェントが動いている最中にも適用されることです。

ここで重要になるのが、Runtime Controlという考え方です。

OWASPが2026年9月に公開したAgent Control Standardでは、AIエージェントについて、

  • 何者なのか

  • どのリソースへアクセスできるのか

  • どのActionを実行できるのか

  • 実際に何を行ったのか

を把握し、実行時にポリシーを適用する考え方が示されています。

例えば、

「このAIエージェントは顧客情報を閲覧してよい」

とルールを定めるだけではなく、実際に更新や削除を行おうとした場合には、その操作を許可しない。

こうした実行時の制御まで含めて設計することが重要になります。

AIエージェントは、従来のソフトウェアのように決められた処理だけを機械的に実行するとは限りません。

与えられた目的や状況に応じて、利用するツールや実行するActionを選択します。

だからこそ、事前にルールを定義するだけではなく、実際のActionに対して権限を適用する仕組みが必要になります。



必要なときだけ、必要な権限を与える

その具体的な考え方の一つが、Just-in-Time Access(JIT Access)です。

AIエージェントに常に強い権限を持たせるのではなく、必要な業務を行うときだけ、必要な権限を一時的に付与します。

例えば、

  • 通常は顧客情報の閲覧のみ

  • 特定業務の間だけ更新権限を付与

  • 作業終了後に権限を自動で失効

  • 誰の承認で何を実行したのかを記録

といった設計です。

Microsoftも、AIエージェントには最小権限の原則を適用し、必要なタイミングだけ権限を引き上げる考え方を示しています。

これは、人間のアカウント管理でも使われてきた考え方ですが、AIエージェントではより重要になります。

AIエージェントは、人間よりも高速に複数の処理を実行できるからです。

必要以上の権限を長期間持たせるのではなく、

誰の代理として、何の業務を行うのか。
その業務に必要な権限は何か。
その権限をいつまで有効にするのか。

をセットで設計する必要があります。



結論|ガバナンスは「禁止」から「任せ方の設計」へ

AIエージェント時代のガバナンスで重要なのは、禁止事項を増やすことではありません。

必要なのは、

誰の代理なのか。
何を実行できるのか。
どこまでアクセスできるのか。
その権限はいつ失効するのか。
実行時にどう制御するのか。

をあらかじめ設計することです。

AIエージェントの価値は、人間に代わって業務を進められることにあります。

その価値を活かすためにも、「使わせない」ことを中心に考えるのではなく、どの範囲なら安心して任せられるかを設計することが重要です。

つまり、AIガバナンスは単なる利用ルールから、Identity、権限、実行時制御まで含めた業務設計へと広がりつつあります。

次回はさらに一歩進めて、そもそも業務にどの程度のCapabilityを持つAIを選ぶべきなのかという、モデル選定とガバナンスの関係を取り上げます。



AIxができること

AIxは、AIを前提に企業の仕事・人材・組織のあり方を再設計し、実行まで支援する会社です。

独自のREWIREフレームワークを用いて、AI導入を単なるツール導入で終わらせず、業務プロセスや組織、人材まで含めて「AI時代にどう変えるべきか」を整理します。

人材領域では、企業やプロジェクトに必要なAI人材を定義し、適切な人材のマッチングやチーム組成まで支援しています。

AIエージェント活用においても、企業ごとの業務やシステムに合わせて、誰の代理として動かすのか、どのActionを任せ、どの権限をどこまで・いつまで与えるのかというガバナンス設計から支援します。

こうした権限・責任設計を自社だけで整理することに難しさを感じている方は、ぜひAIxへご相談ください。



参考情報

SYS // AIx-OS

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